冷たい上司の温め方
「麻田です。あの……」
『お前、なかなかいい度胸してるな。
普通二十一時過ぎと言われたら、そのくらいにするものだ』
「すみません。えっと……寝てしまって」
そのくらいの常識は持ち合わせているつもりだ。
だけど、私の予定を聞くことなく一方的に時間を指定した彼だって、悪いじゃない。
もしかしたらデートだったかもしれないのに。
デートの相手は、どこにも見当たらないけどさ。
『お前、やる気あるのか?』
「ありますよ! だけど……いえ、なんでもありません。すみません」
卒論を書くために連日深夜まで難しい文献を読み漁り、授業が空けばバイトの日々。
就活で貯金を使い果たしてしまった今、働かなければ来月の食費が危ういというところまで来ている。