それでもキミをあきらめない
「なんだ。やっぱり話はしてないじゃないか」
朝子がちいさなため息をこぼした。
「たしかに、言葉を交わしたわけじゃないけど」
それでも高槻くんと、視線を交わしたのだ。
彼の目は、きちんとわたしの輪郭をとらえたのだ。
「朝子ちゃんには……分かんないよ」
まぶしいくらい自分に自信があって、まわりからの声に傷つくどころか、跳ね返してしまうほどの強さを持つ彼女には、きっとこの気持ちは分からない。
「ふうん」
彼女はそういうと、もうそれ以上何も言わず、参考書のページをめくった。
怒ることもしない。
わたしに何を言われたところで、気分を害する理由にはならないのだ。
窓からそよぐ風は、夏の残りをさらってきたみたいにほんの少しだけ湿っている。
背後で、朝子が風に邪魔されないよう参考書を押さえる気配がした。