それでもキミをあきらめない


わたしは自分が幽霊なんじゃないかと思うことがあった。
 
朝子とだけ話す、朝子にしか見えない、一年生の亡霊。
 
それが嫌だったわけじゃなくて、むしろ、存在の薄さが心地よかった。
 

誰もわたしに気づかない。誰にも見えてない。

それはとても自由なことのように思えていた。
 

それなのに、高槻くんは……
 
よりによって、高槻くんが。
 

わたしの存在に、気づいた。


両手がふさがっていたわたしは、黙って彼を見つめることしかできなかった。
 
あまりにも驚いて、お礼のことばも出てこなかった。
 
高槻くんは結局、生物の教科書の上にわたしのペンケースを置くと、そのまま通り過ぎて行った。


< 12 / 298 >

この作品をシェア

pagetop