幸せにする刺客、幸せになる資格
『おはようございます』

と、まず一礼をした彼女。
頭を上げると、注目されている視線を感じたのか、それから逃れるように俯いた。

すると大和くんが、彼女に何やら耳打ちし、そして彼女が顔を上げた。

『私は、南高校1年生の千村琴乃(チムラ コトノ)と申します。大和くんとは、南高校に入ってからの同級生です。今日は、ぜひ摘果作業を手伝いたいと思って参りました』

セミロングの髪を2つに結び、黒目が大きくて色白な女の子。

私が彼女くらいの頃、こんな感じだったな。

『それは有難いけど、何を思って手伝いたいのかだけ、まずは聞かせてもらえるかな?大和との関係よりも、君個人の人となりの方が重要だから』

ノリは、明らかに緊張している彼女に対し、優しい口調で聞いた。

『あの…大和くんから、自分の家がりんご農家だと聞いた時、祖父母のことを思い出しまして』

琴乃ちゃんの話は…

家は隣の市にあり、高校へは電車通学。
クラスで自己紹介をした時に、大和くんが"うちはりんご農家"と言ったことがきっかけで、琴乃ちゃんから話し掛けた。

『実は祖父母がりんご農家だったのですが、父が後継ぎにならなかったので、高齢を理由に離農してしまったんです』

蜂矢さんの家と同じだ。
赤の他人のノリが継いだから生き残ったけど。
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