幸せにする刺客、幸せになる資格
『今日は…大和と会うのにここへ来たので、病院とは駅から反対方向ですし、自転車だと1時間くらいかかってしまいますから…母も平日だけでいいと言ってくれてます』
「こういう時は近くの大人を使いなよ、琴乃ちゃん」
『え?』

確かに、琴乃ちゃんのお母さんが入院している病院は、自転車では遠く、なかなか通いつめるのは難しい。

でも、車なら20分もあれば着くだろう。

「僕が病院へ連れて行くよ、琴乃ちゃん。お母さんと会話できる残された時間は、少ないぞ」
『ノリさん…ありがとうございます』

琴乃ちゃんは時折、僕のことを"ノリさん"と呼ぶ。

"お父さん"じゃないし、"おじさん"にしては僕の容姿が若すぎるのが理由らしいけどね。

「大和、お前も来い」
『分かった。一緒に行く』

こうして大和と琴乃ちゃんを車に乗せて病院に向け出発した。

車中で、大和がボソっと言った。

『俺、コトのお母さんに会ったことがないんだ』

家には行ったことがあるが、その度に入院中で見舞いにも行ったことがないらしい。
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