幸せにする刺客、幸せになる資格
『大和のお母さんが生きていたとしても、この土地でりんごを作っていたと思いますか?』

まず、アイスティーをひと口飲んだ琴乃ちゃんが聞いて来た。

「あぁ、間違いなく作っていたよ。なぜなら、蜂矢の爺ちゃん婆ちゃんを紹介されたのは、大和が生まれる1ヶ月前・・・つまり、まだ母さんが生きていた時だったから」

安曇野に来たのは紅葉が亡くなったからではない。
そもそも両親は紅葉と結婚することにも、18歳という年齢で僕が父親になることも、全てに反対だったんだ。

だから、早々に僕を安西家から勘当することは決まっていた。
僕は、腹をくくった。

紅葉と、生まれて来る子供と一緒に安曇野でりんごを育てながら幸せに暮らそうと。

ところが・・・紅葉が亡くなり、男手ひとつで大和を育てることになった現実。
親戚も知り合いもいない土地。

大和も幼いころから、沢山の我慢を強いられてきたはずだ。

生活は決して豊かではなく、蜂矢の婆ちゃんがある程度の食事は作ってくれたり世話はしてくれたものの、他人であることに変わりはない。
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