幸せにする刺客、幸せになる資格
日曜日。
私は今日から摘果が始まると聞いてノリさんの家を訪ねた。

家にいたのは、蜂矢さん家のお婆ちゃんの、いとさんひとりだった。

『ノリくんなら今、花を買いに街に行って、そのまま墓参りだよ』
「墓参りですか?」

今日は6月3日。
りんご農家はそろそろ"摘果"という、品質の良いりんごを作るために余分な果実を間引くという、大事な作業に入るこの日に、墓参りとは。

しかもノリさんはこちらの土地の人間ではないから、遠くまで行くのだろうか。

『毎年、この墓参りを合図に、摘果の作業が始まるのが恒例でね』

そう言って、お婆ちゃんは私にお茶を出してくれた。

「東京まで行かれているのですか?」
『いや、すぐそこだよ。この道まっすぐ行った所にお寺さんがあるでしょ。そこにあるんだよ、大和くんのお母さんのお墓が』

大和くんのお母さん?
と、言うことは、ノリさんの奥さんってことかな…

「それは、大切なお墓参りですね」
『まぁ、どうやらそのお母さんとは、結婚する前に亡くなられたみたいなんだけどね』

ノリさんは"未婚の父"ってこと?
少なくとも私の親戚や友人関係でそんな人はいない。
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