理想の都世知歩さんは、




写真を撮る。

わざわざピースをする宵一が画面越しに写る。

いつか、衵に見せよう。



「これから出勤なんだっけ」


徐に台所に戻って食器を磨き始めた宵一に声を掛けると、ん、と頷かれる。


「流石にこの瞼は…。今日は残業」


袿は、と聞き返されて「夕方から講義」と答える。食器を磨き終えた宵一は冷凍庫から保冷剤を取り出して瞼に当て始めた。


「玉蜀黍茶ありがと、これ取り来ただけだから帰るわ」







まさか宵一まであんな瞼になっているとは思わなかったけど、それにしては妙にすっきりした顔でピースを向けた。


衵が、放っておかないだろうと思いながら家に着く。



「あ、兄ちゃんおかえり。私午後出勤だから――」


気合いを入れたような険しい顔を作ったまま、保冷剤で瞼を冷やしながら居間で振り返った衵にデジャヴ感を感じる。

思わず笑みが零れた。



「?」


「がんばれ」



衵も、宵一も。




夏に見た宵一の肘の傷は、冬の厚着に埋もれて見えなくなっていた。






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