理想の都世知歩さんは、
『衵の方が余程、弱者ヒーローを救う為の『ヒーロー』っぽいね』
持てるだけの荷物を黄色いリュックに詰め込んだ私を玄関で見送る兄ちゃんは、その言葉で私を送り出した。
とんでもない。
だって私のヒーローは都世地歩さんだよ?
兄ちゃん。
私が一歩を踏み出したのは真夜中。
冬の暗闇の中に、ずぶりと足先突っ込んで彼の元に向かった。
都世地歩さんには未だ何も言っていない。
何だか胸がぎゅっと締め付けられるような懐かしさを滲ませるアパートの前に辿り着く。
見上げて、そっと息を吐き出す。
寒さなんて感じなかった。
肌を刺す冷たさも、身勝手さも、全部ぜんぶ吐き出した。
私は、あの懐かしい階段を上った。
久しぶり。
また、懐かしくなくなるといいなって。
何もかも、笑って隠そう。
古びた呼び出し鈴に、手を伸ばす。
――――――いつか同じように、何かに手を伸ばした記憶が在った気がした。
気が付いたら手を伸ばしていて、ドア一枚向こうで物音がした。
何の声も聞こえないままドアは開けられる。
「――――…あれ、げんか、く…?」
「ぶふっ」
あの雪が降った日の私と、同じようなこと言ってるよ都世地歩さん。