理想の都世知歩さんは、
「って、え!?」
飛び出そうなほど目をかっ開いて叫んだ都世地歩さんからはお風呂上りだったのか、ふわりと爽やかな香りが漂った。よく見上げると髪も濡れたまま。
「へへ、今晩は」
「え、な、何お前こんなじかん、にっ」
時計は、二十一時を指す前くらいだろうか。
寒い寒いと押し入る私に押されて後ずさる都世地歩さんの足元を見ると、靴下が片方しか履かれていなかった。
右足を履かせている時にお邪魔してしまったのかと思うと笑える。
後ろで、軋むドアが閉まる音を立てた。
「すみません、靴下履いている最中だったんですね」
恥ずかしいのか、眉を顰める都世地歩さんの姿が眸に映る。
こうしてすぐ近くにいることが不思議だった。
手を伸ばせば届く距離にいるなんて夢みたいで。
「都世地歩さん」
「?」
「『帰って』きてしまいました」
「…は」
「……」
「……」
「あ、えと、だめ…でしたかね、もう先約とか…事じょ「ばーーか」
「衵。おかえり」
「……っ、た、だいま…」
決意を胸に抱いたまま、逃げ腰になる私を。都世地歩さんは自分で仕掛けた悪戯のように笑って助ける。
何事も無かったかのように。洗面所に靴下を取りに行く。
私は嬉しくて嬉しくて、靴を脱ぎすてながら慌てて追い掛けて、「寝るの、床で全然平気です…!」と大きな声で言った。
「いやいや…」と背を向けたまま振り返った都世地歩さんは、「自分の部屋あるだろ」とぽつり。
驚く私の前に戻ってきて頬を抓み、額を寄せて少し惜しそうに囁いた。
「『帰って』って何。『連れ出す』って言ったのに」
ああ。
(好き)の瞬間からちょっとしたことで、どうしてこんなに心臓が激しく脈打って、痛くなる。