理想の都世知歩さんは、




すきだ、って心の中に響く度。涙が滲みそうで、ちょっと怖いくらいだった。




「今何作ってるところ?」


ぎ、と僅かに椅子が軋む音。


「肉じゃが」

「ふーん…」

「?都世地歩さん、肉じゃが好きじゃなかったっけ」


何となく呟いて、振り返った。


「んー…?すきだよ」



呟いて振り返ったら、「ふーん」は雑誌に目を向けていたから上の空気味に答えたんだってことが判ったんだけど。

突然。

思い切り目が合って、何気無しに言われたその言葉が毒のように体に回る。



回って回って、苦しくて。



慌てて、「そうですか!!」と大きな声で言う。


「何!?急に大声だな」


「ははは。と、とよちほさんはその、日曜日のお父さんみたいだね」


「……は?」


これくらいで、目が合ったくらいで、食べ物の好き嫌いを聞いたくらいで、こんなんでどうするんだ私。

しっかりしなきゃ。


強く頑なに目を瞑って言い聞かせる。


その後ろで、何を思ったか立ち上がった都世地歩さんが「じゃあお父さんは牛乳でも飲もうかな~」とか何とか言っていた。





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