理想の都世知歩さんは、




「え、無視ですか」


どきどきを体の奥底に沈めて、閉じ込めて、まな板の傍にスタンバイ中の玉葱になんとか手を伸ばす。

皮を剥いて、冷たい水に晒して。

それで。


流れて行ってしまったら?



「……あこめー。何で首紅くなってんの?」


「!!」


私は慌てて濡れたままの右手を項に宛がえた。

ヒヤリと冷たい手と水滴が、丁度よく熱を冷ましてくれそうだった。


なんで。


どうして。



「かわいー」



「…は」


小さな囁きが鼓膜に届いてきて酷く驚いた。


「衵?」


「…っ」


「…え。泣いてんの」
「泣いてないよ」



だって、


玉葱が、気持ちを。




短い髪が、項を。





曝してみせてしまう。






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