初恋は雪に包まれて
「だから、俺と付き合ってほしい。」
これは夢なのかな。
でも、寒さで耳が痛い。ちゃんと現実なのだ。
伊東くんは、私のことが好きらしい。
この事実を職場の人たちに話したら、何人の人が信じるのだろう。
いや、たぶん誰も信じないだろうなぁ……。
向かい合ったまま、しばらく無言でいた。
ついさっきまで私の頬を潰していた彼の右手は、今はもう暖かそうな黒いダウンジャケットのポケットのなかに収められている。
「えっ、と……」
真っ直ぐな視線で、私の体に穴が空きそうだ。
「あのね、伊東くん、」
声が震える。
「ご、めんなさい。」
声は、雪の町へ溶けた。