【短編・番外編】恋の罠〜恋を見つけた時〜
大きなため息を落としながら表情を歪めた時、階段を下りてくる足音が聞こえた。
その方向に目をやると、小川が長い髪を揺らしながら下りてくるところだった。
「ごめんなさい、先輩っ」
少し息を切らせた小川が、ピンクになった頬を緩めながら言う。
最初の頃はこんな柔らかい笑顔をオレに見せる事はなかったのに…
『好きな人の前だと緊張しちゃって…』
小川の言っていた事を思い出して、オレは隣の小川に視線を落とした。
…もう好きじゃねぇって事か。
廊下から下駄箱へと移動した時、社会科室のドアが開いた。
静かな校内にガラッとした音がよく響く。
その音に、オレも小川も視線を移す。
中から出てきた朱莉の顔は赤くて、そんな朱莉を満足気に見つめながら会長が手を引く。
繋がれた手が、2人の間で揺れていた。
2人はオレ達には気付かない様子で、オレ達に背中を向けて歩き出す。
そんな様子を見ていた小川は、ほぉっと意味深なため息をついた。
「相沢先輩って素敵ですよねぇ」
何気なくもらされた小川の一言に、オレの頭に一気に血が上るのが分かった。
何も話さないオレを不思議に思ってか、小川がオレを覗き込む。
「先輩?」
『先輩』
小川のオレを呼ぶ声が、朱莉が会長を呼ぶ声と重なる。
小川がオレを見つめる瞳が、朱莉が会長を見つめる瞳と重なる。
目の前にいるのは小川なのに…
それは理解してるのに…体が勝手に動いた。
かなり近い距離からオレを見つめてくる小川の顔に影がかかる。
オレによって影が落ちた小川の頬に触れて…
小川の唇を覆おうとした時―――…
目を閉じない小川に気付いて…
強い眼差しで見つめられている事に気付いて…
「…ごめん」
小川の頬に触れていた手を、がくんと落とした。
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