翼のない天狗
「……深山様に会ってきました」
「深山に……何と」
「清青様が無事であること、そして二十年戻れないことを」
「そうか……深山は変わりなかっただろうか」
「はい」
 清青は安堵の表情を見せた。




 夜明けが近い。見張りの人魚も、じきに人魚の姿で戻ってくるだろう。
 清青は、ゆっくりと氷魚から唇を離した。氷魚は長い睫を震わせて常磐緑の瞳を覗かせる。
「氷魚」「清青様」
 声が重なってしまい、二人は苦笑し合う。
「……氷魚、」
 清青から喋る。
「もう、此処へは来るな。御身大切にされよ」
 優しい口調で諭す。氷魚は小さく頷いた。
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