キミのための声
葵くんは男達をそのままにして
乱れた制服を適当に直しながら
こちらに向かって歩いてくる。
足が鉄の塊みたいになって
全く動かないあたしを
由香が強く引っ張り、併に隠れた。
葵くんはあたし達の存在に
気付かずに、ザッザッと
かかとを鳴らして歩いて行った。
まだ、体の震えが止まらない。
状況が、うまく理解出来ない。
由香は、その場に
座り込んでしまった
あたしに向き直って、
「あたし、朝ここ通るから…
ちょうど殴り合ってるところ
見ちゃって。バレないように
遠回りして、急いで
アンタの所に行ったの」
「………………」
「ねぇ、滝澤くんおかしいよ。
あんな人だったの……?」
悲しそうに眉を下げる由香に、
あたしは何も返せない。
由香は併から
そっと顔だけを出して、
「それに、アレやばいよ…
バレたら葵くん、退学に
なっちゃうかもしれない」
「………で…で、も……」
震えるあたしの背中を、
由香がそっと撫でてくれた。
「喧嘩、ふっかけたの…
あ、あの人達かも、しれないし……」
「…そうだけど、でも
喧嘩したことがバレたら
どっちからでも問題でしょ?」
「………そ…そっか……」
どうして。
どうしてあんな酷いこと……
「……聞いてこようか」
「……え?」
いまだに座り込む
あたしの前で、
由香が強い表情で立ち上がる。
「あの人達に…なんで
こんなことになったのか」
「――えっ!?危ないよっ!」
「しっ!静かに」
「~~っ………」
「心配するフリしてあたしが聞いてくる。
あの人達もう力残ってない
みたいだし、大丈夫だよ」
由香……
あたしのために…?
そりゃ、何がどうなって
こんなことになったのかは
すごく気になるけど
でも……
不安がるあたしに
由香はニコッと笑い、
「大丈夫!あたし兄貴が
喧嘩とかよくするから、
見慣れてるんだ。」
「そ、そういう問題じゃっ…」
「愛梨沙はここで待ってて」
「えっ……」
「アンタは滝澤くんの彼女。
危ないでしょ、なんか。」
「でも、由香は何も……」
言い終えないうちに
由香が口元で人差し指を立て、
「しーっ…」と静まらせる。
「いいから、待ってんのよ」
コソッとそう言って、
辺りを見回してから
走って行ってしまった。