キミとの距離は1センチ
「……、」



わたしより先に、席を立った人物がいた。



「おー、伊瀬も今日社食?」



なら一緒に行こうぜ、と笑いかける浅尾さんに、伊瀬はうなずいて。

それからなぜか、ジロリとわたしに視線を向けた。



「な、なに──」

「……言いたいことあるなら、ちゃんと言えば?」



怒ったような、呆れたような声音でそう吐き捨てて、伊瀬はさっさとこちらに背を向けた。

訳がわからない伊瀬のせりふに、さなえちゃんと浅尾さんもぽかーんとしていて。

伊瀬がひとりドアの向こうに消えるのを、言葉を失ったわたしは呆然と見つめる。


……ようやく目が合ったと思ったら、なんなの今の態度は??!



「……なに今の。今日の伊瀬、機嫌悪いん?」

「……知りません!!」



半ばキレ気味なわたしに「おまえもこえーよ」と引きつった笑みを浮かべ、浅尾さんは伊瀬を追って出て行った。

若干戸惑いながら、さなえちゃんが首をかしげる。



「めずらしいですね、あんな伊瀬さん」

「………」



……ほんとになんなの、伊瀬 昴!!

ますます訳、わかんない……!!




──オフィスを出た彼がその後、廊下の壁に片手をついて「やっちまった……!」と悶えていたことを、わたしは知らない。
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