キミとの距離は1センチ
その日、わたしはことごとく、伊瀬を避けた。

何気なく視線が合えば、勢いよく逸らす。仕事のことで話しかけられても、絶対に目を合わせないようにして「うん」とか「わかった」とか、最低限の言葉しか発しない。

わたしは、伊瀬みたいに器用じゃないから。こないだまでの彼のよそよそしい態度にまわりは気付いていなかったと思うけど、今日のこれは、間違いなくまわりの同僚たちもおかしいと感じているだろう。

不自然だってことは、自分でもわかってる。わかっていても、わたしは何事もなかったようになんて、振る舞うことができないのだ。



「佐久真、あのさ──、」

「ごめんっ、後で!!」



定時を過ぎた頃、ちらほら席を立ち始めた人たちがいる中で、伊瀬が話しかけてきた。

わたしはすばやく彼の言葉を断ち切ると、用もないのに席を立ってその横をすり抜けた。

デスクを離れた以上何もせずに戻るわけにもいかないから、そのままの勢いでオフィスを後にする。



「……どうしたの、おまえら。ケンカでもしたんか?」

「………」
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