キミとの距離は1センチ
「……はあ、」



歩きながら、心を落ち着かせるように深く息を吐く。

……うん、やっぱり、忘れよう。伊瀬にとってあの出来事に、特に深い意味なんてなかったんだ。

『振られた』とか、『傷の舐め合い』とか、言ってたけど……要はただ、その場でやれる相手がいれば、よかったんでしょ? わたしじゃなくても、よかったんでしょ?

なのにわたしばっかりが気にして、馬鹿みたいだ。

あんなの……雨に濡れて気が滅入ったせいで見てしまった幻覚だと思って、忘れる!!

だけど伊瀬は、わたしの中で『同期』から『赤の他人』に、降格!!


勢いよく、マーケティング部オフィスのドアを開ける。

ちょうど入口近くにいた西川さんが、びっくりしたような表情でわたしを見た。



「あれ? 佐久真っち、さっき若殿が追いかけてったと思うんだけど……」

「はい? 知りません、そんな人!!」

「………」



馬鹿みたい。馬鹿みたい馬鹿みたい。 


……伊瀬の、バカヤロー!!
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