キミとの距離は1センチ
思い出したくないのに。……忘れてしまいたいのに。

あのときの記憶が、わたしの心を掻き乱す。



「さく──、」



かあっと、一気に頬が熱くなった。きっと今、自分は顔を赤くしてしまっているのだろう。

そしてそんなわたしの様子に気付いたのか、訝しげにわたしの名前を呼ぼうとした伊瀬の声が、ぴたりと途切れた。

ふと視線を上げてみれば、彼は目を見開き、口を真一文字に結んだ状態で固まっている。


……なによ。なんなのよ、その反応は!

わたしはもう、彼のすべての言動に、反感を覚えて。

そのままくるりと、踵を返した。



「っあ、」



背後で伊瀬のつぶやく声がしたけれど、無視して扉を閉める。

うら若き女子にあるまじき大股でズンズン廊下を歩きながら、わたしは下くちびるを噛みしめた。


……なんなの、伊瀬のあの態度!!

もう少し、気まずいとか、わたしに申し訳ないとか……っそういう感情、ないわけ??!

いくらなんでも、動じなさすぎなんじゃないの??!
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