キミとの距離は1センチ
屋上を示す【R】ボタンを押して、わたしはふらりと壁に寄りかかる。


……さなえちゃんは、かわいい。でもあの告白のときのさなえちゃんは、いつも以上に、かわいかった。

顔を赤くしながら、必死に想いを伝えようと、言葉を紡いで。


エレベーターが屋上にたどり着き、ホールの床に足を踏み出してからも、わたしはすぐには動けなかった。


そういえば、前に……伊瀬は自分の好きなタイプを、『守ってあげたくなるような子』って、言ってたな。

それって、さなえちゃんぴったりじゃん。前にも自分からさなえちゃんのこと進言したことあったのに、どうしてすぐ、思いつかなかったんだろう。


屋上庭園に出てまわりを見渡すと、すぐに浅尾さんはわたしに気がついて駆け寄って来た。

コーヒーとお釣りを無事渡し、こっそりお礼を言ってくれるその人に曖昧に笑って、わたしは忙しいフリをしながらサーバーのまわりを片付けてみたりする。


ビアガーデンは、相変わらず騒がしい。

話し声、笑い声、グラスを合わせる音。

その中で自分のまわりだけ、この景色から切り取られたみたいだ。


……『ありがとう』って、伊瀬、言ってた。

それはつまり、きっと、さなえちゃんの告白は受け入れたということなんだろう。

そっか、あのふたり、付き合うんだ。

伊瀬はもう、わたしのことなんてどうでもいいみたいだし……あのふたりなら、お似合いだよね。
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