キミとの距離は1センチ
「い、いひゃいれす……」

「かわいい、かわいい。あー、珠綺ちゃんはかわいいなー」

「……うー……」



解放されたほっぺたを押さえつつ、わたしはくちびるをとがらせた。



「……わたし、かわいくなんてないです。女らしくないし、大雑把だし」

「そうかな。俺からすれば、きみはすごく“オンナノコ”に見えるけど」



そんなことを言ってもらえたのは初めてだから、また、顔が熱くなった。

ほんとにもう……この人には、羞恥心というものがないのだろうか。



「って言っても俺がちゃんと気付けたのは、付き合い始めてからなんだけどね。……まわりが勝手に作り上げたイメージを、演じなくていいんだよ。街でかわいいワンピースを見つけて目を輝かせるのも、動物の映画観て号泣しちゃうのも、全部ほんとのきみなんだから」

「………」



やさしく言い聞かせるようにゆっくりと話す、宇野さん。

その言葉が胸にしみるのは、やはり彼が、わたしにとって兄のような存在だからなのだろう。



「……そしてこのことに気付いているのは、実は俺だけじゃないのです」

「え?」



おどけるようにそう言われて、首をかしげた。

ブルバ本社の王子様は、やっぱりその端正な顔に、極上の笑みを浮かべる。



「──さて、それは一体誰でしょう?」
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