キミとの距離は1センチ
「とりあえず、あの駅での分はこれで許す。とりあえず」

「………」



と、『とりあえず』を2回言ってるあたり、なんだかこわいです伊瀬さん……。


頬を押しつけられている真っ白なシャツから、伊瀬のにおいがする。

ドキドキして、落ち着く、におい。

鎖骨のあたりにひたいを擦りつけながら、わたしはまた、その背中に手を回した。



「……宇野さん、も、確かに大事な人だけど……」



顔は見えないけれど、一瞬にして、伊瀬から不穏な雰囲気が醸し出されたのがわかった。

ぎゅうっと強く、そのシャツに顔をうずめる。



「……恋愛感情で『すき』なのは、伊瀬だけ、だよ」

「──、」

「宇野さんに振られたあの日……い、伊瀬とえっちしたときだって、あのとき宇野さんのこと、全然思い出してなかったもん」



頭上から、深いため息が降ってくる。

やっぱり怒ってるかな、と、顔を上げかけたけれど。

それは彼がまた強くわたしを抱きしめたことによって、叶わなかった。



「……なんだそれ。そんなん言われたら、死にそうなんだけど」

「え……し、死んじゃやだ」

「それ以上かわいいこと言うな。今すぐホテルに連れ込みたくなる」



笑い混じりに言ってるけど、その声音が結構本気なことがわかって、また頬を染める。

伊瀬はわたしの頭を撫でると、両頬を手で挟んで上向かせた。

しっかりと目を合わせた彼は、とてもうれしそうに、笑っていて。



「それじゃあ、改めて。……すきだ。俺と、付き合ってください」

「……はい」




──ずっと、こんなに近くに、あったんだ。


わたしだけの、一等星。
< 237 / 243 >

この作品をシェア

pagetop