キミとの距離は1センチ


◇ ◇ ◇


「──あ。『Spica―スピカ―』だ」



わたしのつぶやきに、伊瀬が手にしている本から顔を上げた。


ここは、もう何度も訪れている伊瀬の部屋だ。

ちまちまとわたしが持ち込んだ物も増えていて、今まさに抱えているクッションも、実は自分で勝手に持ってきた物だったりする。

ベッドに腰かけているわたしと、そのベッドに背を預けて床に座っている伊瀬。

ふたり分の視線は、テーブルを挟んだ向こう側にある、液晶テレビへと向けられている。



「このCMね、わたしの友達にも評判いいんだよ。同期が開発したんだって自慢してやった」

「……自慢するなよ。恥ずかしいヤツ」



呆れたようにそうは言うけれど、その顔はどこかうれしそうだ。

少し前から全国で放送している、『Spica―スピカ―』のテレビCM。

今現在流れているこれは30秒のロングバージョンで、セーラー服姿の女の子が、青々としたプールに裸足の足をつけながら「すきだバカー!!」と叫んでいた。



《“ココロキラメク炭酸飲料、ブルーバード『Spica―スピカ―』、新発売”》



女の子の声で吹き込んだナレーションと同時に、テレビ画面には商品の写真が大きく映る。

最後にもう1度女の子のアップになり、「一等星は、キミだ。」と、切ない声でキャッチコピーをつぶやいた。
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