キミとの距離は1センチ
「………」



視線は活字を追いながら、彼の右手が何気なく本を離れて、テーブルに置いたマグカップを掴んだ。

それが口元に運ばれたそのタイミングで、またわたしは、話しかける。



「……ねえ、昴」

「んー?」



プライベートでだけ呼ぶその名前は、やっぱりいまだに、ちょっとだけくすぐったい。

本から視線を上げないまま生返事をする彼に、わたしは続けた。



「おとめ座の『スピカ』って、別名『真珠星』ともいうんだって?」

「ぶっ」



その瞬間、彼がコーヒーを吹いた。

ゴホゴホと咳き込みながら、伊瀬はなんとか本とマグカップをテーブルに置く。

マグカップを口元にあてたままだったからか、コーヒーがまわりに飛び散る大惨事は避けられたようだ。

わたしの中で少しだけ罪悪感が頭をもたげたので、ボックスティッシュを差し出してやる。



「……珠綺、」



口元をティッシュで拭い、キロリと涙目で睨んでくる彼に、にっこり笑顔で対抗する。



「ふふふ、まさかわたしが知ってるって思わなかった? まあ、ついこないだ教えてもらって、初めて知ったんだけどさー」

「………」

「わたしの名前、佐久真 珠綺の真ん中にも『真珠』あるよねぇって、都がにやにやしながら言ってたよ」

「……はあ」



深くついたそのため息は、きっと、我らが同期・都サマへの抗議で満ちている。

わたしはベッドから降りて、伊瀬の隣りにぺたりと座った。

期待を込めた眼差しで、彼を見つめる。
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