キミとの距離は1センチ
『Spica―スピカ―』は発売以来なかなか好調な売れ行きで、社内での伊瀬の評判はさらに上がっているようだ。

そしてそんな彼とわたしが付き合っていることは、一応ブルーバードの人間には内緒にしている。まあ、バレたらバレたでそれは構わないんだけど。

今のところわたしたちのことを知っているのは、都と……さなえちゃんの、ふたりだけだ。


テーブルの上の、甘いカフェオレが入ったマグカップを持ち上げて、口元に運ぶ。

この、猫のイラストが描かれたマグカップは、いつの間にかすっかりわたし専用だ。

こくんとひと口、甘い液体を飲み込んで。ちらり、少し低い位置にある彼へと視線を向ける。



「……“若”にしては、かわいいキャッチコピーつけたね?」

「ん?」

「『Spica―スピカ―』の。一等星はキミだ、って」



あー、と納得したようにつぶやいて、彼がちょっと拗ねた表情でわたしを振り返った。



「あの頃、いろいろ患ってたからな。どっかの誰かさんのせいで」

「えー、なんか引っかかる言い方だなあ」

「事実だろ、鈍感女王」



ど、鈍感女王って……なにそれ、全然うれしくないんですけど。

むう、と、くちびるをとがらせる。

そんなわたしにふっと笑って、再び伊瀬は本の世界に戻った。
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