《キャラバト》白衣の保険医と黒い翼
朱祢の声をかけた方を見ると、一人の男がいた。
男にしては長めの黒髪に、ロックシンガーのような派手な格好。
「あ、君」
ラスクの見覚えのある男だった。
先ほどまで戦っていたのだが、体液を求めるほど魅力的な男ではないため、逃げたのだ。
ちょっと離れた此処まで飛んだのだが。
ここは山中。彼はなかなかラスクを見つけられなかったのだろう。
走ってきたらしく、はあはあと息を切らしながら――黒い彼はラスクを睨む。
「遅かったね。お先にここの彼女と一戦交えてたよ」
「てっめぇ…」
殺気のこもった目。
彼の全細胞がラスクを粉々にしたいと震えているようだ。
ザッと足音がしたので見れば、朱祢が彼に向かって走っている。
そして。
「ぅごらぁっ!?」
彼の頬がめり込むほど強く、殴った。
変な声を出す彼に、情けも何もなく。
「てめぇ何してんだ!
ラスクに当たったらどうすんだボケェ!」
すっとんきょうなことを叫んだ。