《キャラバト》白衣の保険医と黒い翼
「だありん!傷はつけるなよ!」
不服そうな朱祢の声が聞こえ、ラスクは苦笑する。
――なんだ、この国は。
堕落していて、のうのうとしていて、規模も小さいくせに嫌に平和で。
敵も愛してしまうのが神なんて、おかしすぎる。
「なんだか面倒になってきた」
思わず口走った本音に、イラついたらしい人がいた。
「あ?ふざけんなこのクソ鳥もどきが!鳥の姿で朱祢を取り巻きやがって…殺してやるっ!」
肉を抉る痛みに気づいたのは、その時だった。
「うわ」
さほど気にしてないような声だが、実態はひどい。
黒庵の剣が、少しだけ油断したラスクの肩を抉っていたのだ。
肉片が散らばり、血が舞う。
「ラスク!」
「っ…」
肩を押さえて魔力で治そうとしたラスクに、声がかかった。
朱祢である。
「うるさい朱祢。敵じゃぞ?」
「あー!もう、ふざけんな…敵って、鳥だろ?」
「…バカじゃのう」
はあ、とため息をついて。
「お主、魔眼にかかったのじゃろう?」
「ぅううるせぇっ」
「…バカじゃのう、まことに、バカじゃ。……疑わないのかえ、彼を」
「――え?」