《キャラバト》白衣の保険医と黒い翼
神話では十拳を並べたような――そう表現される。
それに納得する長さで、飾り気はあまりなかった。
「黒庵!」
ヒュンッと危なっかしい手つきでそれを黒庵へ投げた。
一瞬意外そうな顔をして、にやりと不適に笑った彼。
「さすが俺様の奥さま。考えが読めてらっしゃる」
ボロボロの愛剣が消滅するのを見届け、十拳剣を握った。
なぎたんを使わなかったのは、訳がある。
なぎたんはあれでもかなりの神様。借りてる身としては、なぎたんを危険に会わすことはしたくない。
十拳剣は使い捨ての剣だが、日本神話に数多く出てくるそれなりの強さを持つ。
それにラスクは危険すぎるから、長さがある剣の方が有利だ。
だから十拳剣にしたわけである。
「やっぱり、日本神話といえど平和第一かぁ」
味方をしてくれるものを失ったラスクは、少し寂しそうだった。