僕のイケナイ先生(→『信じられない彼女ー僕のイケナイ先生』から改題)
「私が、英語科主任です。前の
緒田先生が、突然倒れたんです
。代理と言うかも知れませんが
、実質、主任です」と身を乗り
出して。

いかにも早い昇進だろうと、い
たく得意気で、胸をふんぞり返
す。

「倒れたというと休職中ですか
」と訊ねると、横山先生はふふ
んと鼻で笑って頷く。

「そうですか」とぞんざいな返
事が気に入らないのか、返答は
ない。

「10年でよ」と畳み掛けるよ
うに言って、顎を突き出すイケ
先。

内心、それなら33才位の若造
が妙につっかかると不愉快にな
りながら、玲緒奈先生は、一応
「よろしくお願いします」とだ
け言った。

頭は下げる気にもならない。

それより、これがもしかすると
噂の相次ぐ先生達の退任劇の元
凶かもしれないと気を引き締め
て、鋭い眼差しで見た。

それを察してか。

イケ先容子から、「…それから
、緒田先生が訴えてるとか聞く
かもしれませんが、立ち入らな
いでください。念のため言って
おきます」と案の定、訴訟の事
をほのめかしてくる。

「訴え、といいますと?」と、
玲緒奈先生が素知らぬふりをし
て、訊ねると。

「民事よ。裁判のこと聞いてな
いでしょうけれど、本当に嫌に
なるわ。ご高齢でおかしいんで
す。退職届け出すように言って
いるのに、まだ出さないんです
。」

と、イケ先容子が明け透けに緒
田先生をこきおろして。

誰に対して緒田先生が訴えを起
こしたのか。民事被告を聞きた
いものだ。

そんな玲緒奈先生の心中にお構
いなく悪口かと思うと、急に、
「初めてだから、色々教えたい
ことがあるので、帰りに時間を
空けておいてください」

有無を言わさない、イケ先。

「ロータリーの所で、5時30分
に来なさい」

命令口調だ。

「お話ならここで伺います」と
玲緒奈先生が答えると。

「みなさんにこうしています。
来てください」と強く言い張る
ので、仕方なく「はい」と頷き
、玲緒奈先生は、部屋から退出
した。

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