新撰組異聞―鼻血ラプソディ
刀を手にし、これから刀を扱う緊張感が、土方さんへの怯えを忘れさせる。


土方さんの手には、女性の手には似合わぬ、指の豆や節があるのに気づく。


女性ながらに、剣を握り生きる覚悟をしている、過酷な日々を物語っている。


近藤さんと芹沢との狭間に立ち、近藤さんを支え、たくさんの隊士を束ね奔走している副長という立場。


土方さんが大股、早足で颯爽と歩くのか、俺の足も早足になる。


土方さんは、暗殺決行の日の朝を稽古で迎えようとしているんだろうと思う。


迷いや動揺、悲しみを打ち消すように。


血をかぶり、後戻りはできない道を進む決意が指先から、伝わってくるようだ。


声をかけようとして、かけられない張りつめた空気。


俺と土方さんの足音だけが響いている。


腰に差した真刀は、山南さんに握らされた時よりも、一層重たく感じられた。



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