私と彼の恋愛理論

物事にはすべて原因があると、彼は言う。

今も、私はそれを諭されている最中だ。

彼の言っていることはいちいち尤もで、覆しようのない正論で、反論の余地がない。


だけど、私も譲れないことがある。

28年間、培ってきた勘。

何となく習慣でやっていること。

自己暗示や現担ぎみたいなもの。


「だって、何となくこっちの方が美味しくなる気がするんだもん。」

彼は盛大にため息を付く。

これも、いつものことだ。

でも、呆れた表情を浮かべる彼に少しだけ申し訳なく思うのも確か。

彼は本気で私の為を思って言ってくれているのだ。

だから、これまたいつもの言葉を私は返す。

「ごめんね。次からは気をつける。」

これは、いわゆる惚れた弱みというやつだ。

何だかんだ言いながら、私はこの男のことが大好きなのだ。

私は、再び目の前の鍋に向かい慣れた手つきで調理を再開する。

でも、知らないうちにおまじないの類の動作を繰り返してしまう。

また、彼の目が光る。

「話、聞いてたか?」



彼のことが、好き。

何故かは分からないけど。
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