私と彼の恋愛理論
図書館のカウンターの中で、私は来月のスタッフのシフト表を作成していた。

水曜日の午前中。
館内には利用者もまばらで、事務仕事をするのにはうってつけの時間だ。

この図書館のスタッフはほとんどがパートとアルバイトで、司書資格を持つ主婦や学生が中心だ。

シフト作りはもう長らく私の担当だけど、毎月パソコンとにらめっこすることになる。

子供の学校行事に、大学の試験、親戚の結婚式に…

スタッフにはあらかじめ出勤出来ない日を申告するように言ってある。

それぞれ事情は違うのに、どうしても休みたい日が被ってしまう。


「しかたないな、この日は私と里沙を、フルタイムにして…」

知らず知らずのうちに、声に出してしまっていたらしい。

私の背後、カウンターに座る里沙から返事が返ってくる。

「やーよ、三連休の真ん中の日に朝から晩まで働くの。」

画面をのぞかなくても、どの日のことか特定出来たらしい。さすがだ。

「そんなこと、言わないでよ。この日絶望的に人がいないのよ。」

私は画面を見たまま声だけで懇願する。

「じゃあ、代わりに次の週、平日に連休ちょうだい。」

「いいよ!」

即座に交渉成立だ。

「彼と旅行に行こうと思って…」

恥ずかしそうに言う里沙には、最近付き合い始めたばかりの年下の彼がいる。
飲食店向けの営業をしている彼の休みは火曜と水曜らしく、里沙が最近バイトの子の土日勤務のシフトを頻繁に交代してあげているのを私は知っていた。

私はふふふと笑って、連休翌週の里沙の火曜と水曜に連休を入れた。
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