あの頃の君へ



すると黙ってそっぽを向いた拓真。



「ちょっとー、そこはいつもみたいにからかっ」



「はよ寝ろ。あ、風邪移したら罰金だから」



唖然とした私を放置してそのまま拓真は寝室から出ていった。



……はぁ?



風邪引きに向かって罰金……やはりアイツはアイツだ。



ついさっきまで少しほっこりした気持ちになっていた自分が馬鹿みたいだ。



そのせいで思い出してしまった。



拓真が発ってしまうと決まった前のバレンタイン。



ぎゅっとチョコレートの入った袋を握り、マフラーに顔を埋めて自分の家の玄関の前で拓真を待っていた。


緊張しないように目は瞑り、その代わり隣の家の門が開く音は聞こえるように耳を澄ます。



待っていたのか待っていなかったのか、わからないその音が聞こえて目を開けると、女の子の声が聞こえた。


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