あの頃の君へ
もうだいぶ時は経つのに、その声だけは今も鮮明に思い出せる。
「拓真くんが好きなの。私と付き合ってください」
それは私がとても言えそうにない台詞だった。
今まで幼なじみとして仲良くしていて、その関係を一瞬で壊してしまう言葉だからだ。
手に持っていたチョコレートだって義理として受け取ってくれれば良いと考えていたし……。
これ以上、聞いてはいけない。
というか私がこの後を聞きたくなくて、玄関に入ろうとすると拓真の声が聞こえた。
「ごめん」
それだけだった。
でもそれは拓真なりに気を持たせ続けてはいけないと考えた結果なのかもしれない。
「……うん。わかった。でもこれだけ受け取ってくれないかな?拓真くんのために作ったから」
「わかった。ありがとな」
「はぁー。振られちゃった!拓真くんってさ、やっぱり噂通り、好きな人がいるんでしょ?」