あの頃の君へ
わざと明るく出ていくと、拓真は机に置いてあった数冊の本と手に持っていた本をスーツケースにしまった。
「ちゃんと熱計れよ」
ぽいっと手のひらに体温計を乗せられて、ソファーに座って計っていても何だか落ち着かない。
「拓真さ、何読んでたの?」
「みのりには一生かかっても読めなそうな本」
「何よ、海外のエロ小説でも読んでたんですかー」
「ばーか。俺の夢の本だよ」
「拓真の夢……?」
するとちょうど体温計が鳴って拓真に見せると渋々頷いた。
「まだ微熱だけど、後はよく寝れば大丈夫だな」
「はーい。で、拓真の夢って何なの?」
「……どうせ叶わねーし、それにみのりには関係ない」
関係ない……。
「……ぶー。拓真のケチ。あ、夕飯どうしよっか?私朝からまともに食べてないからお腹空いたー」
今までに何度か感じた拓真が私に作る壁。
その度に私は辛い気持ちになっていたけど、本当に辛かったのは拓真の方だったんだね。
気付いてあげられなくてごめんね、拓真ーーー