あの頃の君へ
すると男はどんどんと私の顔に近付いた。
必死の抵抗で顔を背けると、男は舌打ちをした後に掴んでいた私の手首を片手で頭の上にまとめた。
そしてもう片方の手を私の頬に添え、無理矢理男の方を向かされる。
あぁ、もう駄目だ……
災難続きで結局見ず知らずの男に襲われるなんて……
今日は本当に最低最悪の日だ。
この世に神様なんているわけないんだ。
男の顔が近付くのが涙で霞んで見えていると、突然誰かの声が聞こえた。
「何してんの?」
その声とほぼ同時に私の視界に1人の男が映りこんだ。
ドカッ
そんな音が聞こえると、次の瞬間に痴漢男は倒れる。
え……?
「んだよ、邪魔しやがって……」
痴漢男はそんな言葉を残すと、高架下から出て足早に雨の中を走っていった。