世界でいちばん、大キライ。
思わず声を上げてしまったのは他でもない。

「すごいな。英語、話せんだ?」

そこにいたのは『意外』とでもいいたげな顔で自分を見下ろす曽我部の姿があったからだ。

英語は独学で学んでいる最中の桃花は、その実践的な状況にしか意識が向いてなく、さらには私服姿の曽我部の存在に気付かなかった。

「や……〝なんちゃって英語〟ですけど……ちょっと、勉強してて」
「へぇ……」

腕を組んで右手を顎に添えながら、桃花を見て感嘆の声を漏らす。
曽我部に見られているというだけでも桃花は緊張してしまうのに、出会い方が突然だったために余計にそれを助長させられていた。

――もっとなにか言葉を口にしたい。

頭ではそう思っていても、まだ平静さを取り戻せない桃花はただ落ち着きなく視線を動かしているだけ。
すると、自分の視線がひとつの原因だとは思いもしていない曽我部が桃花の全身をじっくりと見て口を開く。

「休憩中?」
「えっ。あ、はい」
「メシ、買いに行くの?どこ?」
「え?あの……すぐそこのコンビニです、けど」

桃花の手にある財布に目を落とした曽我部が聞くと、不思議そうな声で答えた。
すると、曽我部がジャリッと靴を鳴らし、方向転換しながら言う。

「助けられたし。奢らせて」

一歩先を行く曽我部が振り向きざまに、僅かに片方の口角を上げて笑った。
たったそれだけのことなのに、桃花の心中は落ち着くどころかさらに掻きまわされ――。

「や、あの!それならこの前、私も助けてもらったし……!」
「あー……そうだったっけ?もう忘れた」
「えぇっ!」

もちろん、「忘れた」なんてことは本当じゃないことくらいはわかる。
けれど、それ以上なにも言わせてくれないような大人の優しい強引さがあって、桃花は曽我部の後をついて行くしかなかった。

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