世界でいちばん、大キライ。
「ただ『好き好き』言ったってダメなんだよねぇ。でも、それ以外なんにも出来なくて……久志さんにしたら、私も麻美ちゃんと同じ、子どもでしかないのかも……」

自嘲するように乾いた笑いと共に続ける桃花の言葉に、やはり麻美は、きゅっと唇を噛むだけ。

その様子に気づいた桃花は、パッといつものように明朗な印象を前に出して、少し張った声を出す。

「でも、ほら、そんな暗いカオなんかしてられない! さっきも言ったけど、留学の夢、叶いそうだし! 悪いことばっかじゃない……かな、なんて」

元々、落ち込むことがあったとしても、自力で乗り越えてきた。なるべくポジティブに物事を考えるように、気持ちを引きずらないように。

生きていれば悪いことが起きることなんて当たり前のことだし、同じだけ、いいこともあるはず、と。

久志については、二度、突き放されたも同然。

今まで積極的になっていたのは、恋愛以外のことについてだ。だから、今回のショックはそういう意味で初めてのこと。
それに、気づけば想像以上に久志の存在が大きく心に残っていて、そう簡単に区切りをつけられるようなものではなかったから。

「……でも、おかしいよね。ずぅっとそれを目標にしてきたはずなのに、私…」

その言葉は、目の前に座る麻美に向けてと言うよりも、自分自身への問いかけのよう。

今、頭に浮かぶのは久志で……。

彼のスーツ姿やコーヒーを飲む仕草。あの低い声や、目尻に皺を作るようにくしゃりと笑う顔。
麻美に対する優しい思いや、自分以外を優先するような控えめな性格。
広い胸、温かい唇、大きな男らしい手。

いっそ、嫌いになれるような部分でも探して、それで思考を埋めてしまえればいいのに。
そうしようと思えば思うほど、全く逆の現象が起きてしまう。
まさか、今までブレることのなかった信条が恋愛でこんなにも容易く揺らぐなんて。
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