世界でいちばん、大キライ。
そんな、自分の新しい発見と同時に、それだけ大きくなってる想いが届かないことに切なさがこみ上げる。

桃花は軽く目を閉じ、すぅっと息を吸って瞼を押し上げた。

「久志さんに、最後にメールしてみようと思うんだ」

麻美の目に映る桃花もやはり、もどかしく切ない思いを馳せられるもので。
まだまだ経験もしていない、未熟な麻美ですら胸を締め付けられた。
何も言うことが出来ずに、ただ、懸命に優しい笑顔を浮かべるのを見つめて……。

「いらっしゃいませ!」

カランという音の合図で桃花は振り向き、去り際に麻美にもう一度笑顔を見せた。
パタパタとカウンターへと戻っていく桃花を目で追う。
いつも通りに仕事に戻る桃花をしばらく眺めたのちに、手元のカップに視線を落とした。

そっと小さな手を白いカップに添うようにすると、心地よい温度が手のひらに伝わってくる。まだカップに浮かぶクマの形は健在で、その場違いなくらいに緩い表情をしたクマを複雑な思いで見た。

ゆっくりと取っ手に指を絡めて持ち上げる。口につけて啜った瞬間にクマは変形し、輪郭が歪んでいく。
口内に広がるココアの風味は、やけに甘く感じた。

「冷めてる……」

それから、桃花は変わらず仕事中ではあったが、ちょくちょく麻美のことを気にするように、合間に声を掛けていた。
それはもう、先程のような込み入った内容ではなく、当たり障りのない雑談だった。

30分ほど滞在した時に、麻美は席を立つ。
その時も、他の客が後から席を立ち、桃花はそちらに気を配らなけらばならなくなったために、言葉を交わすことが出来なかった。
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