世界でいちばん、大キライ。
「チャンス……ですよね、やっぱり」
「……迷ってる?」

出された時と比べて熱が冷めているカップに迷いの言葉を落とす。そんな桃花を見て、了はさらにこう言った。

「それがどんな理由なのかはわからないけど……ただ、ひとつだけ。迷った気持ちのまま行ってもきっと意味ないよ。100パーセントの気持ちで行った方がいいと俺は思う」

その了の言葉はもっともだ、と桃花は理解できる。
ただ、それは同時に、久志への気持ちに区切りをつけなければいけないことを意味する。

桃花が俯き、ひとり思い悩んでいる姿を横目で見た了は、それ以上なにも言わずにカウンターから出た。
そのまま桃花の後ろを横切って入り口に向かうと、プレートをcloseにしようと手を伸ばす。

その行動は閉店時間を意味するもので、桃花は了に聞こえないほどの溜め息を吐くと、すっかり冷めたココアに口を付けた。

――キィ。
静かな店内に響くその音は、ソッジョルノの入り口のドアが開く音。

いつもの業務の流れを知る桃花には、それは了が開けたものではないはず、と一気に期待が高まる。
冷えたココアを波打たせて、コンッとカウンターにカップを戻し、ガタッと席を立った。

「申し訳ないんですが、本日は営業終了してます」

桃花は了の声を聞き流しながら、自分の背丈ほどある観葉植物の向こうにちらりと見える人影の正体を捕えようとする。
逸る気持ちで足をさらに前に踏み出すと、明るい声が聞こえてきた。
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