世界でいちばん、大キライ。


「あの、わざわざ送っていただいてすみません。ありがとうございました」

ハザードランプの点いたタクシーの横で、桃花は後部座席に座っているジョシュアに頭を下げる。
あれから、ジョシュアが行きたいと言っていた和食の店に同行し、タクシーで桃花のアパートまで送ってくれたのだ。

「ドウイタシマシテ」

開いた窓からニッと笑って答えたジョシュアは、真剣な顔つきをして続けた。

「オレが話したいことはほとんど話したつもり。あとは、モモカが決めて」

ご飯を共にしながら、普段の緩い印象のジョシュアとは打って変わって、終始真面目な話をされていた。

ジョシュア自身が好きなコーヒーの話から始まり、イタリアのバールを渡り歩いていたことや、了とのこと。そして、世界大会や、店を開くまでの苦労話。

それから、桃花がついて行った場合の生活や、勉強兼仕事内容について。

それらはどれも、ずっと一流のバリスタを夢見ている桃花にとっては魅力的な話で、夕食に誘われたときこそ警戒心を抱いていたものの、すっかりとそんなことを忘れるくらいに、ジョシュアの話に夢中で耳を傾けた。

しかし、最終的判断を委ねられる瞬間には、どうしても頭に浮かんでしまう。

姿を見せなかった、久志の存在が――。


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