世界でいちばん、大キライ。


「お疲れ様でした。定時ピッタリに上がるなんて、あまりありませんよね……?」

オフィスからそこまで遠くはない人気チェーン店のカフェに入って、席に着いた水野が先に開口した。
水野の分のホットコーヒーも持っていた久志は、テーブルにそれを置くと向かい側に腰を下ろす。

「よく知ってんな。まぁ、かと言って、いつもそこまでしっかり残業もしてないんだけど」
「……見てましたから」
「……そっか」

派遣スタッフの水野の就業時間は午後5時まで。久志たち正社員は、本来なら午後5時半までと、さほど変わらない勤務時間。

しかし、久志の抱えている仕事はいつも尽きなくて、納品が差し迫って追われることもしばしばだ。

それでも、ここ半年は麻美がいるため、休日出勤はしないでやってきた。
その分、平日は少しだけ残り、どうしても必要な場合は家に持ち帰ったりして。

残業が一切ない水野は、いつもすぐには帰る気配のない久志を横目に退社していた。
もちろん、特別な思いを馳せながら。

堂々とそんな意図を醸し出すような返答に、久志はコーヒーをひと口含んでぽつりと漏らした。
それから、しんとした雰囲気になり、再び沈黙を破ったのは水野だった。

「あ、これ……。電話で話していた果物です。私と娘じゃ食べきれなくて……。りんごも入ってるので、麻美ちゃんにも。その後調子は大丈夫なんですか?」
「ああ、すみません。今日は学校行ったし、だいぶ回復したよ。心配掛けたな」
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