世界でいちばん、大キライ。
口をぽかんと開けたまま、桃花の思考は完全に停止した。
見上げる先にいるのは、間違いなく久志。

「向こうのヤツってこともあって、顔も綺麗だったしな。オレと違って、話もうまいだろうし、そりゃあいいよな」
「なっ……あの人とはそういう関係じゃなくて!」
「わかってる。ワザとだよ」

狭い路地裏で見上げると、久志の顔が近くに見える。
けれど、その近さのせいではなくて、確かに、久志は先刻から桃花の見たことのない、微妙な心情を顔に出していた。

久志の少し不貞腐れていたような顔がスッと、いつもの涼しい顔に戻るのを黙って見つめていると、スイッと視線を横にずらした久志が口を開く。

「……決めたんだ?」

瞳に映る、久志の薄い唇。
その口角は僅かに上向きになっているけれど、斜め下を見る目は楽しそうには思えない。

桃花は断腸の思いで震える声で絞り出した。

「……だって……私、もうソッジョルノ辞めることになってる、し」

どうして今、こんなことになっているのか。
久志が今目の前にいることは、本当に心から嬉しく思う。
しかし、それを素直に喜ぶことが出来ない現状が、桃花の表情を曇らせる。

(だけど、久志さんが日本(ココ)にいるなら……)

奥歯を噛んで、何度も何度も考える。
そして悩んだ末に、行き着きそうになった答えを口にしようかとしたとき……。
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