世界でいちばん、大キライ。


週明けの営業中、少し客が引く合間の時間。
桃花はいつも曽我部が座る席を眺めていると、窓の向こうにふと、見覚えのある姿を見つける。

(今、通って行ったのって……!)

当然、通り過ぎて行った人物は立ち止まることをせず。
そのまま窓枠から外れ、見えなくなってしまったのを、桃花は咄嗟に入口へと走り、その後ろ姿を捕らえた。

「まっ……麻美ちゃん!」

ジーンズ素材のリュック。かわいいマスコットと、いくつかの缶バッヂをつけたそれを背負った女の子がぴたりと足を止めた。
くるりと振り返ったときの顔は、怪訝そうな警戒した顔。
しかし、呼び止めた相手が桃花だとわかったら、麻美は深い眉間の皺をやや和らげると、目を大きくした。

(ど、どうしよ。呼び止めたものの……その先まで考えてたわけじゃないし)

体の側面を見せるように立ち止まった麻美は、なにも発さずに、ガラスのような瞳を桃花に向け続ける。
その視線が、また桃花をより動揺させて……。

「こ……ココア、好き?」

気付けばそんなことを口走っていた桃花は、もう後には引けず。
どうにか口元に笑みを浮かべながら、自分は怪しい者じゃないとアピールすると、麻美は意外にもその体を正面に向けなおした。

「あ、い、今!今、お客さんもいないし!良かったら飲んでいかない?」

必死で言葉を繋ぐ桃花に、真正面から見据えた麻美の眉根がまた寄り始める。
その険しい表情に、桃花は後悔の念しか浮かばない。

が、突然、麻美が桃花に向かって歩み寄ってきた。
その間、目を逸らさずに。

そして、桃花の真ん前で足を揃えて立つと、まるで試すかのような目を向ける。
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