世界でいちばん、大キライ。
「その……この間は、曽我部さんに助けられたりしたから。そのお礼っていうか。だから気にしないで飲んでね」

トレーを抱え、内心かなり動揺しながらも、桃花は気を遣ってそう言った。
しかし、麻美は全く動かずに……ココアに手を伸ばすどころか、桃花の方を見ようともしない。
その様子を見ると、桃花は肩を窄めて呟いた。

「怒られる……かな?」

下心がない、とは言い切れないかもしれない。しかし、桃花は純粋に、麻美自身のことも気になるというのもあった。
けれど、彼女たちにしたら、『勝手な真似をするな』と思うことかもしれない。

桃花が自分の行動に反省をしていると、微動だにしないまま麻美が口を開いた。

「さぁ……。帰宅が遅くさえならなければ問題ないとは思うけど」

未だに何年生なのかわからないが、今のこどもは大人びている。
その姿勢や、ものの言い方がすでにもう〝こどもではない〟のだ。

澄ました顔で棘のある口調の麻美が、ほんの少し表情を崩した。
面白くないと言ったような、苛立ったような。
そんな顔をして、横に立つ桃花を突如見上げた。そして、さらに毒気を含んだように言い放つ。

「あなたもあれ? あたしに取り入って、ヒサ兄に近づきたいクチ?」

振り向き見上げた麻美の顔は、やはりまだ幼さの残る顔立ち。
それに反するような話し方と内容に、桃花は驚きのあまりすぐに返答できずに麻美を見つめていた。

(「ヒサ兄」? 私も……って)

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