世界でいちばん、大キライ。
ぐるぐると麻美に言われたことを頭の中で咀嚼するも、疑問符が浮かぶばかり。
すると、ガタン!と麻美は席を立って、桃花を睨むようにして言う。

「どーぞ、ご自由に。……勝手にすればいいのに」

小さく捨て台詞のようにボソリと最後の言葉を吐き捨てると、麻美は早足でカフェを飛び出した。

バタバタとした音に椎葉が顔を覗かせるが、桃花はそれに気付くこともせず。
一口も飲まれなかったココアをそのままに、体が勝手に動きだし、麻美を追いかける。

よくわからないままに、ただなんだかこのままじゃいけない気がした桃花は、黒髪を上下させて走って行く麻美を無心で追い掛けた。

すると、駆けだしてすぐに、横から現れたひとりの男子に麻美が呼び止められた。

「浅野(あさの)?なに走ってんの?」
(“浅野”……?曽我部じゃないの?)

桃花が疑問符を浮かべていると、立ち止まった麻美は、男子を見ると小さく息を吐いて冷静に答えた。

「別に?信号変わりそうだったから。あんたのおかげで渡れなかったけどね」
「あ、そうなの?わりぃな!じゃーな!」

サッカーボールを脇に抱えた男子は、もう片方の手を高々と上げて駆けて行った。
足を止めてしまった麻美は、背後に桃花の気配をさっきから感じていた。
だから、余計にこの状況で振り向くことも、また逃げ出すことも出来ずにしばらく立ちすくむ。

さらりとした艶やかな髪を風に靡かせている麻美の後姿に、桃花が声を掛けた。

「ねぇ。せっかくココア淹れたんだし、飲んでみない? うちのココア、甘すぎなくて美味しいと思うんだけどな」

背中から聞こえてきた言葉に、不覚にも麻美は目を丸くして振り返る。
自分の言葉で麻美が振り向いてくれたことに、桃花は自然と笑顔が零れた。そしてその笑顔をみて、なおも麻美は固まったように目を見開いたままその黒い瞳に桃花を映し出していた。

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