世界でいちばん、大キライ。
「……ね。ココア(これ)。飲んでる間は女同士、腹割って話する――っていうのどう?」
「は……?」
「じゃ、私からね!」
「えっ、ちょっと! 勝手にっ……」

半ば強引に押し切る形で、了承も得ていないのに桃花がそのまま話しだす。

「私、葉月桃花。24歳。独身。彼氏ナシ」

冷えたココアを時折啜りながら、その水面を見つめてつらつらと言葉を繋いでいく。
そして麻美は、反論する隙もなくぺらぺらと話を続ける桃花を唖然として見つめていた。

「高卒で、今は一応ココの社員……みたいな感じ。一人暮らしで、家族は母親だけ。この仕事が好きだし、カフェラテが好き。甘いものも好き。……余計なお世話も、たぶん、好き」

ひとまず桃花がそこで言葉を区切ると、麻美が少ししてから長い睫毛を伏せてココアを一口含んだ。
こくり、と喉を小さく鳴らしてから、コトッとカップを優しくテーブルに戻した。

「……本当、余計なお世話」

麻美はぽつりと漏らしたのちに、すぐ言葉を紡いでいく。

「あたしは……浅野、麻美。……小6。ワケあって、ヒサ兄のとこに……いる」

一度目に腰を下ろしたときのようなピンとした姿勢ではなく、椅子に背を預けて話す姿は、桃花からみてこれが彼女の等身大の姿だと思った。

麻美は麻美で、どうせさっきのクラスメイトに遭遇したのを見られてたのだから、と、気持ちを吹っ切った。
自身の両手を遊ばせながら、そこに視線を落として続ける。

「曽我部久志(ひさし)はあたしの〝おじさん〟。お母さんの弟。……だから、勝手に誤解してがっかりなんか……しなくて、いい……」

小さな口を尖らせて、照れ隠しのようにあえて少し偉そうな言い方をする麻美に、思わず桃花は停止する。
小学生とはいえ〝女〟なのだ、ということは、その久志から聞いたことだ。

それがどういうところを指して言ったものなのかまで、桃花には分かり得なかったのだが、今、それが少しわかった気がした。

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