世界でいちばん、大キライ。
目的の調理器具のコーナーの前で立ち止まりながらぼんやりと考える。

桃花の男性遍歴は至って普通。
過去に2人ほど付き合っていた男はいたが、一人目は学生時代のまだこどものような付き合い。二人目のときは桃花は学生ではなかったが、たまたま出会った相手は同い年でもまだ学生で。
生活スタイルも思考も桃花とはかけ離れていて、桃花は熱くなることもないままに別れを告げて終わった。

そして両方ともに桃花は告白された方。
裏を返せば、桃花が自分自身から誰かを好きになって、告白をしたことは一度もない。

そういう話や相談をする相手もいない。

桃花は昔から人当たりは良かったが、特定の〝誰か〟を作ることを最も苦手としていて、卒業してもなお連絡をマメにとるような相手がいなかった。

それでも淋しいと思わなかったのは、自身の志があるから。

ラテアートを学びたいという思いだけで、今の今まで生活してこれた。
そのために、カフェで色々なジャンルのメニューも勉強している桃花が淹れたコーヒー。
それを毎週飲みに来る久志に、言葉では説明できないなにかで、惹かれてしまっていたのだ。

(まだお互い知らないことばかりだけど……でも、こんなチャンスもうないかもしれないし……)

自分の気持ちを曝け出すと言うのは誰でも躊躇すること。
けれど、桃花は輪を掛けてそれが苦手でもある。

片親でも懸命に育ててくれた母や、クラスメイト、カフェの仲間。
その人たちに、自分の夢や希望の話はできても、自分の思いをその都度ストレートに表現は出来ないできた。

家庭環境からかもしれない。
母が頑張っているから自分も……と、『つらい』などということは口に出さずに来た名残りで今に至るのかもしれない。

レードルや包丁を眺めて母を無意識に思い出していると、同列の奥に立つ久志に気がついた。
久志は桃花にまだ気が付いていないようで、なにやら視線を低くして難しい顔をしている。
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