世界でいちばん、大キライ。
「こう?」
「そう。簡単でしょ? これをコーヒーに乗せれば……ね?」
「美味しそう。あ、ねぇ。これにもあの店で出してくれたみたいに絵とか描けるの?」
「え? ああ、うん。たぶん。こーやって……」
桃花が麻美に質問される度に丁寧に教える、ということ30分。
気も遣わずにレクチャー出来ていたのは、久志が自室から姿を現さなかったからだ。
それについては、気まずい思いと緊張しなくて済む、という反面、もしかしてこの微妙な空気を少し脱する糸口が見つかるかもしれないのに……という残念に思う部分もあった。
「じゃあ私帰るね。なんか長くなっちゃってごめんね」
淹れた飲み物を飲もうともせず、いそいそと帰り支度をして桃花が玄関へと向かった。
それを察してか否か――。
「……あ。お、おじゃましました……」
「ん? ああ」
玄関で靴を履くときに、近くのドアが開いて久志が姿を覗かせた。
「飲んで行けばいいのに」
「ううん。突然だったし。お二人で召し上がってください」
麻美の声掛けに、後半は久志に対して言葉を掛けると、桃花はぺこりと頭を下げる。
その間、やはりまともに久志を見ることは出来ず……。
するとその様子を悟った麻美が提案する。
「ヒサ兄、送って行ったら……?」
「えっ」
「はっ?!」
その提案に、桃花と久志はほぼ同時に声を上げ麻美を凝視した。
「だってとっくに暗くなってるし」
「いや! 大丈夫! 大丈夫だから! ね? 麻美ちゃん、ありがと。また木曜日よかったら来てね!」
わたわたと明らかに動揺しながら、来ていたジャケットも着ずに手に持ったまま。
桃花は逃げるように久志の家を飛び出した。